若菜 その一五八

「先日は風に誘われてそちらの院の御垣のうちにも立ち入ることができましたが、女三の宮はどんなにか私をこれまでにもいっそうお蔑みになられたことでしょう。あの夕べから気分も悩ましくなりまして、わけもなく今日をぼんやり物思いにふけって虚しく暮らしました」



 などと書いて、




 よそに見て折らぬ嘆きはしげれども

 なごり恋しき花の夕かげ




 とあるが、先日の蹴鞠の日の事情を知らない小侍従は、ただ世間一般のありふれた恋の歌の物思いなのだろうと思っている。


 女三の宮の前に人影の少ない時だったので、小侍従は手紙を持ってきて、



「この人がいつもこんなふうにいつまでも忘れられないといって手紙をよこされるのですが、うるさいことでございます。でもあまりお気の毒な様子を見ているうちに見るに見かねて同情するかもしれないと、自分ながら自分の心がわからなくなりまして」



 と笑いながら言うのだった。

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