若菜 その八十一
光源氏は供人を呼び寄せてあの枝垂れ咲いている藤の花を一枝折らせた。
沈みしも忘れぬものをこりずまに
身も投げつべき宿の藤波
とても悩んで沈み込みながら高欄に寄り掛かっているのを、中納言の君はいたわしく拝している。
朧月夜は今更に昨夜の密会がとても恥ずかしくて、様々に悩み乱れながら美しい藤の花のような光源氏がやはりなつかしくて、
身を投げむ淵もまことの淵ならで
かけじやさらにこりずまの波
まるで若者のするような忍び逢いを光源氏も我ながらもっとのほかのことだと思いながらも関守の監視の厳しくないのに気が緩んでか、後の逢瀬のこともよくよく約束になって帰っていった。
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