若菜 その七十三
「あの方と、取次なしに物越しでもいいから直接お話申し上げたいことがある。いいように申し上げて、承諾いただいた上で、全く秘密にほかの者に気取られないようにお伺いしたい。この頃では、そんな忍び歩きも窮屈な身分の上に、これは至極秘密にしなければならないことなのだ。そこでそなたはめったに他人には漏らすようなことはあるまいと思うので、お互いに安心というわけだ」
と言う。朧月夜は、
「さて、どうしたものかしら。男と女の愛情がよくわかってくるにつけても、昔から薄情なあの方のお心を数々見せつけられたその果てに、今更、しかも朱雀院のいたわしくも悲しい出家を差し置いて、どんな昔の思い出話をすることができよう。なるほど誰も秘密の逢い引きに気づかないとしたところで、自分の良心に咎められたらどんなに恥ずかしことだろう」
とため息をついては、やはり逢うことはできないとばかり、返事をするのだった。
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