若菜 その七十二

 けれども今、こうして朧月夜がのどかな独り暮らしの境遇になり、静かに落ち着いて暮らしているこの頃の様子を、いっそう知りたくて光源氏は心が落ち着かないのだった。よくないことだとはわかっているものの、さりげない見舞いにかこつけて心を込めた手紙を始終送っているのだった。


 今となっては昔のような若々しい色恋めいた関係ではないので、朧月夜も時々は返事も返すのである。


 昔より更に今はこの上もなくすべてが備わり、円熟した手紙を見るにつけても、やはり逢いたくてたまらず、昔二人を取り持ってくれた女房の中納言の君のところにも、深く切ない思いのたけをいろいろと書いて常に寄こす。


 中納言の君の兄の前の和泉の守を呼び寄せて、若々しい昔に返って、相談を持ち掛けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る