若菜 その六十
あまり遅くまで起きているのもいつにないことと女房たちが不審がるだろうと気が咎めて、帳台に入った。女房が夜具をかけたが、紫の上はこのところ本当に独り寝で、横に光源氏がいない寂しい夜な夜なが続いていることに、やはり平静ではいられない切ない気持ちになる。
「あの須磨へ光源氏様がいたっしゃってお別れしていた頃を思い出すと、どんなに遠く離れていられても、ただ同じこの世に生きていらっしゃるとさえお聞きすれば、自分のことなどはさておいて、ただ光源氏様の身の上ばかりを惜しくも悲しくも思ったではなかったか。もしもあの時、あの騒ぎにまぎれて、光源氏様も自分も命を落としてしまっていたなら、どんなにあっけない二人の仲だっただろう」
と思い直しもするのだった。外には風の吹いている夜の気配が冷え冷えして、なかなか寝つけられないでいるのを、側の女房たちが気づいて怪しみはしないかと、身動きもしないのもやはり何としても苦しそうだ。そんな時、夜のまだ暗い中に一番鶏の声が聞こえるのが、身にも心にも沁みとおるようだった。
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