若菜 その三十

 朱雀院の行う行事というのは、おそらくこれが最後になるだろうと帝も東宮も同情して宮中の蔵人所や納殿にある唐渡りの品々をたくさん贈った。


 六条の院からもおびただしいお祝いの献上品があった。来客たちへの祝儀の品々や、人々への禄、腰結い役の太政大臣への贈り物の品々などは、すべて六条の院から贈られた。


 秋好む中宮からも女三の宮の装束や櫛の箱をとりわけ心を込めて調製する。その中に、あの昔秋好む中宮が入内の時、朱雀院が贈った櫛上げの用具に、祝いの意味を込めて新しく細工を加えたものがあった。それでももとの風情は失わず、その品とわかるように作らせてあった。それらを裳着の当日の夕暮れに贈る。


 中宮職の権の亮で朱雀院の御殿にも出仕している者を使いとして、女三の宮のほうへさし上げるようにと命じた。中にこういう歌があった。




 さしながら昔を今に伝ふれば

 玉の小櫛ぞ神さびにける




 その歌を見つけた朱雀院は、身に沁みて思い出したこともあった。秋好む中宮が自分の幸せにあやかるための贈り物として、縁起が悪くはないだろうと、女三の宮に譲った栄えある櫛なので、朱雀院の返歌も昔の自分の思い出には触れないで、




 さしつぎに見るものにもが万世を

 黄楊の小櫛の神さぶるまで




 とだけお祝いの気持ちを詠むのだった。

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