若菜 その十九

「それぞれの身分に応じて、前世からの宿縁だなどと言っても、そんなことはもともとわからないものなのだから、あれもこれも心配でならない。何ごともよかれ悪しかれ、親兄弟といった頼りになる人々の考えてくれた通りに、教えを守って世の中を過ごしていったら、それぞれの運勢次第で、将来万一落ちぶれるようなことになっても、本人の過ちにはならない。一方、勝手な縁を結んで、時が過ぎ、さらにこの上ない幸運に恵まれ、世間的にも好ましい結果を招くような場合は、それはそれで悪くなかったのだと思われる。それでもやはり、突然そのような自由恋愛の話を耳にした当座は、親にも認められず、きちんとした保護者にも許されないのに、自分勝手な秘密の恋愛沙汰をしでかすのは、女の身としてはこれ以上の大きな汚点はないと思う。身分のないごく普通の臣下どうしの恋にしても、そういうのは軽薄で好ましくないこととされる。結婚は本人の心を無視して決められることではないけれど、自分の心に染まぬ男と夫として、生涯の運命が決められてしまうのは、女としての日頃の心がけや態度がいかに軽率だったかを推量されてしまう。女三の宮は妙に頼りない性質のように見受けられるので、お前たち周りの者の勝手な一存で、ことをとり計らなわないように。もし不都合な噂が世間に流れたりしては、実に情けないことになるから」



 など、自分が出家した後のことまで女三の宮の身の上を案じるので、乳母たちはますます面倒なことになったと互いに思案するのだった。

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