若菜 その四

「私はもうこの世に何の恨みの残るようなこともありません。ただ女宮たちが大勢あとに残されているので、その将来が案じられるけれど、それが臨終の障りにもなりそうです。これまで人の身の上をあれこれ見聞きしたことからも考えても、女はとにかく自分の心に反して軽率なことをして、浅はかだと人の非難を受けるように生まれついているのが実に残念で悲しいことです。あなたが即位なさった御代には何かにつけてお忘れにならず、あの女宮たちのお世話をしてあげてください。その女宮の中でもしっかりした後見のある人はそちらに世話を任せてもいいのです。ただ女三の宮だけがまだ年端もゆかず、ずっと私一人だけを頼りにしてきたので、私が出家をしてしまったら後は寄る辺もなくなり、どんな世の波風に漂いさすらうことかとそれだけがしきりに心に罹って、悲しくてなりません」



 と涙の目を拭きながら、しみじみと気持ちを打ち明けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る