藤裏葉 その二十五
光源氏は秋好む中宮の母、六条の御息所が葵祭の日に車を押しのけられ恥辱を受けた時のことを思い出し、
「葵の上が権勢に思いあがり傲慢な振舞いをして、あんな事件を起こしたのは、思いやりのない仕打ちだった。あんなふうに六条の御息所をずいぶんひどい目にあわせた人も、六条の御息所の恨みを身に受け、祟られたような形で亡くなってしまった」
と、その辺の詳しい事情については言葉を濁し、
「後に残った子孫で、夕霧はこうして並の臣下として少しずつ昇進していく程度でしょう。ところが秋好む中宮の方は、並びない后の位におつきになるのも、思えばずいぶん感慨深いことです。何につけ、先のことはどうなるかわからない無常の世の中だからこそ、何事も生きている限り自分の好きなようにして暮らしたいものです。しかし、後にお残りになるあなたの晩年などが見る影もない落ちぶれようになるのではないかなど、そんなことまでが気掛かりでならないので」
などと紫の上にしみじみ話す。そのうち上達部などもこの桟敷に集まってきたので、光源氏はそちらの席に出るのだった。
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