梅枝 その二十六

 夕霧の中将のは水の流れを豊かに描き、そそけた葦の乱れた様子などが難波の浦の葦の名所の風景にそのままで、水と葦と文字がうまく融けあってとてもすっきりした出来栄えだ。またぐっと書風を変えて、文字の形や岩のたたずまいなどを現代風に書いた紙もある。兵部卿の宮は、



「これは何と見事なものだ。みんな見るのにさぞ時間がかかりそうですね」



 と興味を示して褒める。何事にも趣味が深く風流人ぶっている兵部卿の宮なので、格別に感動したと見える。


 今日はまた書のことを終日あれこれ二人で話す。光源氏が様々な継紙の手本などを選び出したついでに、兵部卿の宮は子息の侍従に命じて邸にある書の手本をいくつか取り寄せた。嵯峨の帝が古万葉集の中から選んだ歌を書かせた四巻、それに延喜の帝が古今和歌集を、唐の浅縹色の紙を継いで巻物にし、同じ色の濃い地模様のある薄手の錦で作った表紙に、やはり同じ縹色の玉の軸、段だら染めの唐組みの紐などで優美に飾り、一巻毎に書風を変えて、またとないほど美しく書いた宸筆を燈火を低く灯して引き寄せて鑑賞するのだった。

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