真木柱 その六十四

 その年の十一月に、玉鬘はとても可愛らしい男の子を生んだ。髭黒の大将はすっかり思い通り幸せになったとご満悦で、その子供をこの上なく大切にする。


 その間の様子などは言わなくとも想像がつくだろう。


 父親の内大臣も、申し分ない運勢が自然玉鬘に開けてきたと喜んでいる。玉鬘は内大臣が日ごろ格別に大切にしている弘徽殿の女御にも容姿などは少しもひけをとらない。柏木の中将もこの玉鬘を心から慕わしい姉として親しくしている。それでもやはり何かすっきりしない気持ちも時折見せ、いっそ宮仕えをしたからには帝の子供を産んだらよかったのにと内心思う。この若君の可愛らしいにつけても、



「今でもまだ皇子たちがお生まれになっていないのに、帝はお嘆きでいらっしゃいますが、もしこのお子が帝の子だったら、どんなに面目を施していただろうに」



 などと、あまりにも身勝手なことを考えたり、言ったりしている。


 尚侍としての公務は自邸で規定に従って勤めているが、参内することはこのまま沙汰止みになりそうだ。それはまあそうなるのが当然だろう。

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