真木柱 その六十二

「女というものは、実の親のところにでも、そう気軽に出向いて会うなどということは、よほどの折でなくてはしないものだ。ましてほんとうの親でもないのに、どうして光源氏の大臣があきらめもせず折にふれて恨み言をおっしゃるのか」



 と、ぶつぶつひとりごとを言うのを、玉鬘は憎らしいと思って聞いている。



「返事は私にはとても書けなくて」



 と書きづらそうにしていると、



「私が書こう」



 と、髭黒の大将が代筆を買って出るのも、玉鬘ははらはらする思いだった。




 巣隠れて数にもあらぬかりの子を

 いづかたにかは取り返すべき




「ご機嫌の悪い様子に恐懼いたしまして。どうも色めかしくて恐れ入ります」



 と書いた。光源氏は、



「この髭黒の大将が、こんな風流ぶったことを言うのは、今まで聞いたこともなかった。珍しいこともあるものだな」



 と、笑う。しかし内心では髭黒の大将がこうして玉鬘を自分のものにしているのを、ひどく憎らしいと思っているのだった。

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