真木柱 その四十八

 光源氏の気持ちはとても深いとはいえ、養父の立場で恋をしかけたりして厭な悩みがつきまとっていたが、帝の心には、決してそんなふうに悩んでいる心配はあるはずもない。


 帝はとてもやさしく、玉鬘が意外な結婚をしてしまったことへの恨み言を言う。


 玉鬘は顔もあげられない恥ずかしい思いに、扇で顔を隠して返事もしない。



「不思議に黙っていらっしゃいますね。今度の三位の叙位のことなどでも、私の気持ちはよくお分かりだろうと思っていたのに、まるで何もわからないような顔をしているのは、そういう性分だったのですね」



 と言い、




 などてかくはひあひがたき紫を

 心に深く思ひそめけむ




「所詮は、深い仲になれないふたりの間なのでしょうか」



 と言う様子が、とても若々しく最高の美しさで、こちらが恥ずかしくなるようだった。しかし、帝といっても光源氏とどこが違っているのかと思うほどよく似ているのに心を静めて、返事を言う。宮仕えしたばかりで何の年功もないのに、今年位階を三位にしてもらったお礼の心を詠んだものだろうか。

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