行幸 その三十四

 手紙には、



「お見知りいただけるようなものでもございませんので、気が引けますけれど、こんなおめでたい折は、遠慮してばかりもいられませんので、これはまことに変なものですが、どなたにでもお下げ渡しください」



 と、おだやかに書いてある。光源氏がこれを見つけてからあきれかえり、またいつもの通りだと思って、赤面する。



「何とも困った昔気質の人なのです。あんなふうに内気な人は、おとなしく引っ込んででしゃばらないのがいいのに。まったくこの私まで恥さらしなことだ」



 と言って、



「しかし返事はおやりなさいよ。返事がもらえないときまり悪く思うでしょうから。お亡くなりになった父宮がたいそう可愛がっていらっしゃったのを思い出すと、他の人より辱めては、ほんとうに気の毒な人なのです」



 と話すのだった。

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