行幸 その十三

  大宮は、



「老衰の病とわかっているのですが、病気のまま幾月も過ぎ、今年になりましてからは、いよいよ回復もおぼつかないように思われますので、もう一度こうしてお目にかかり、お話する機会もなくて終わるのかと、心細く思っておりました。それなのにこうしていらしてくださって、今日という日でまた少し、寿命が延びた気がいたします。今はもう死んでも惜しいような年でもございません。頼みにする夫や娘にも先立たれ、年老いて一人生き残っている例を見るのは、人のことでもほんとうに嫌なことだと感じておりましたから、あの世への旅立ちの支度に、自然に気が急かされてならないのです。この夕霧がほんとうに真心こめて不思議なほど世話をしてやさしく心配してくれるのをみるにつけても、いろいろと想いが残って、今まで生きながらえているのでございます」



 とただもう泣きに泣いて、震え声になるのも愚かしくみっともない感じがするが、それも無理からぬことなので、ほんとうに気の毒に思うのだった。

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