野分 その十八

 南の御殿では格子をすっかりあげわたして、昨夜気にしていた花々が、見る影もなく無残にしおれ倒れているのを、二人で見ていた。夕霧は座り、



「荒々しい風もこちらにおいでくださって防いでくださるかと、子供のように心細く思っておりましたが、こうしてお見舞いをいただきまして、今ようやく気持ちも慰められました」



 と中宮の返事を伝えると、光源氏は、



「中宮は、妙に弱弱しいところがおありで。確かに女だけでは、とても恐ろしくお思いだったに違いない昨夜の荒れようだったのに、お見舞いもしなかったのは、いかにも私を不親切だとお思いになられたことだろう」



 とそのまますぐ、中宮の御殿に参上した。


 直衣など着るために、御簾を引き上げて奥に入るとき、丈の低い几帳を近くに引き寄せてあるので、その陰から、チラリと覗いた袖口は、紫の上のに違いないと思うと、夕霧は胸がドキドキ高鳴る心持ちがする。それが情けないので、わざとあらぬ方へ眼をそらすのだった。

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