野分 その四

 隙見している自分の顔にまで、どうしようもないほどその晴れやかさが映ってくるように思える。紫の上の魅力にみちた美しさは、あたり一杯に、はなやかに匂いこぼれていて、たぐいまれなすばらしい器量なのだった。


 御簾が風に吹き上げられるのを、女房たちが押さえながらどうしたのだろうか、そのとき、何か紫の上はにこやかに笑っている。それが何とも言えないほどの美しさだった。


 紫の上は、風に痛めつけられる花々を気がかりに思い、見捨てては奥へ入らないのだった。周りの女房たちも、それぞれに身ぎれいな姿をしたのが目につくが、紫の上の美しさには、目移りのしようもない。



「父君が自分を、紫の上のお側に近づけないように、つとめて遠ざけるようになさるのは、このように一目見ただけでただではすまされそうにない紫の上の美しさなので、万一、こんなふうに自分が垣間見て、心をそそられるようなことがあっては困ると、思慮深い父君の用心から心配なさってのことだったのか」



 と気づくと、何となくそこにいるのが空恐ろしくなって、夕霧が立ち去ろうとするちょうどそのとき、光源氏が明石の姫君の部屋のある西側から、奥の襖を引き開けて戻ってきたのだった。

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