野分 その三
紫の上の南の御殿でも、ちょうど庭の植え込みの手入れをさせていた折に、こんなふうに野分が荒々しく吹き始めたので、古歌にいう<もとあらの小萩>が<風を待つ>どころの風情ではなく、葉も落ちてしまい、根もとの淋しくなった小萩には、待つにははげしすぎる風の勢いだ。枝も折れに折れて、露もとまる暇もないように、風が吹き散らす様子を、紫の上は少し端近に出て眺めていた。
光源氏が明石の姫君のほうへ出かけたところに、夕霧が来て、東の渡り廊下の衝立越しに、妻戸の開いている隙間から、何気なく部屋のほうを覗いてみた。女房の姿がたくさん見えたので、そこに立ち止まって、こっそり見続けている。風があまりひどいので、屏風も押し畳んで片寄せてあるため、部屋の中まですっかり見通せた。
廂の間の御座に座っている人こそ、他の誰とも見間違えるはずもなく紫の上に違いない。気高く美しくて、さっと香気が匂うような感じがする。まるで春の曙の間から、はなやかな樺桜が繚乱と咲いているのを見るような心地だった。
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