常夏 その十四
光源氏は、
「あなたが来なければ、心も迷わなかったのに」
と、口ずさみ、ますますつのる恋心の苦しさから、このままではやはりこらえきれそうもないと思う。
西の対に出かけることも、あまり度重なり、女房たちに見咎められそうにもなると、光源氏も、さすがに自分の心のやましさに自制して、行くのをひかえた。そんな折は、何かの用事をこしらえて、手紙を絶え間なく届けた。ただもう玉鬘のことばかりが、明けても暮れても心にかかっているのだった。
「どうして、こんなしてはならない理不尽な恋をして、心の安らぐ暇もないつらい悩みをするのだろう。もうこんな苦しい思いはしたくないと、思い通りに玉鬘を自分のものにしてしまったら、どんなに世間から軽薄だと非難されることか。自分の不面目はまあいいとしても、ただ玉鬘のためには気の毒なことになるだろう。またこの人を限りなく愛するといったところで、紫の上への愛情と並ぶような扱いは、とてもできないことは自分でもわかっている。もし妻にしたところで、そういう紫の上以下の立場では、どれほど幸せがあろうか。自分だけは格別の身分とはいえ、その大勢の妻妾たちのなかで、末席に仲間入りするのでは、あまりほめられもしないだろう。それならいっそ平凡な納言あたりの身分からひとりだけ愛されて大切にされるほうが、はるかに幸せだろう」
と、自分でもよくわかっているのだった。
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