常夏 その十三

 女房たちが側近くに控えているので、いつものような冗談も言えずに、



「撫子をたっぷり眺めもしないで、若い人々は行ってしまいましたね。何とかして内大臣にもこの花園をお目にかけよう。世の中も無常だからと思うにつけても、昔、何かの話のついでに、内大臣があなたのことを話しだされたのも、つい今しがたのような気がします」



 と、そのときのことを思い出して少し話すのも、玉鬘には、しんみりと胸にしみて悲しくなった。




 撫子のとこなつかしき色を見ば

 もとの垣根を人や尋ねむ




「それがわずらわしいので、ついあなたをこうして隠していますが、それもお可哀そうだと思っているのです」



 と、言う。玉鬘は泣いて、




 山がつの垣ほに生ひし撫子の

 もとの根ざしをたれか尋ねむ




 とことさらさりげなさそうに答える様子は、本当にこの上もなくやさしくて、可憐な若々しさだった。

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