常夏 その六

 たそがれてゆくにつれ風が涼しくなり、若い公達は、帰りたくない顔つきだ。



「私は気楽にくつろいで涼むとしますか。そろそろ私もこんな若い人たちから、嫌われる年頃になったようだね」



 と言い、西の対に出かけていく。たそがれ時のほの暗さの中に、誰も同じ直衣姿なので、誰彼の区別もつきにくいのだった。


 光源氏は玉鬘に、



「も少し端近く出ていらっしゃい」



 と言ってから、声をひそめて、



「弁の少将や藤侍従たちを連れてきましたよ。この人たちはこちらへは、ほんとに飛んででも来たい思いなのに、夕霧が生真面目すぎて気が利かなく、お連れしないのは思いやりがないことです。この人たちは皆、あなたに下心がなくはないでしょう。ありふれた身分の女でも、深窓にかくれている間は、身の程に応じて男は心を惹かれるものなのです。まして当家の評判なども、内輪のわずらわしさよりは、外見ははるかに立派に思われていて、世間では大げさに想像したり噂したりしているようです。この六条の院にはそれぞれ女君たちがいらっしゃるけれど、あなたがこうしてこの邸に住まわれるようになったので、ぜひ、そういう恋する若者たちの心が、どれほど深いか浅いか見たいものだなど、所在ないままに思っていたのですが、その願いが今叶った気持ちがします」



 などと、ひそひそと囁くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る