蛍 その十一

 五月五日には、光源氏は、花散里の馬場御殿に出かけたついでに、西の対の玉鬘のところへ来た。



「いかがでした。兵部卿の宮は夜遅くまでいらっしゃいましたか。あの宮とはあまりお親しくなさらないほうがいいですよ。宮はあれで厄介なところがおありになる方なのですよ。女の心を傷つけたり、情事で過ちを犯したりしないような人は、めったにいないものですよ」



 などと、兵部卿の宮について生殺自在に、褒めたり、けなしたりして、玉鬘に警戒するように注意する光源氏の様子は、どこまでも若々しくきれいに見えるのだった。艶も色もこぼれるように美しい着物に、夏の直衣を軽やかに重ねた色合いも、どこからどう加わってきた美しさなのだろう。とてもこの世の人の染めだしたものとは思えない。いつもの衣裳と同じ文目も、五月五日の節句の今日は、ことさら快く感じられる。ゆかしく思われる着物の薫香なども、つまらないあの心配がなければ、ほんとうに素敵に思うに違いない姿だろうと、玉鬘は見ているのだった。

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