胡蝶 その三十二

 玉鬘も年こそ召しているものの、男女の恋に経験がないだけでなく、いくらかでも恋馴れた人の有様さえ見聞きしたこともないので、男と女の接し方にこれ以上のことがあろうとは想像できなかった。


 まったく思いもよらないことのある世の中よと、悲しくて、気分もひどく悪くなったので、女房たちは、



「ご病気のようだけれど」



 と、どうしてよいか困っている。



「光源氏様のなさいますことは、まことにこまやかに行き届いて、もったいないほどでございますよ。本当の親御様でも、これほどまでに至れり尽くせりというようなお世話はなされないでしょう」



 など、乳母子の兵部なども、そっと言うので、玉鬘はいっそう心外で、光源氏のいやらしい気持ちにほとほと愛想が尽き果てて、自分の身の上が情けなくてならなかった。

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