胡蝶 その二十七
箱の蓋に載せてある果物の中に、橘の実があるのを手にもてあそび、
橘のかをりし袖によそふれば
かはれる身とも思ほえぬかな
「いつまでも亡きあの方が常に胸に住み、忘れられなくて、心を慰めるすべもなく過ぎてきた長い年月でしたが、こうして母君とそっくりのあなたとお会いするのは、夢ではないかとばかり思われます。やはり、どうしてもあなたを愛する気持ちをこらえられそうもないのです。そんな私をどうかお嫌いにならないでください」
と言い、玉鬘の手を取った。玉鬘は、こんな経験はしたことがなかったので、とてもいたたまれなくなったが、さりげなく、おっとりとした様子で返歌をする。
袖の香をよそふるからに橘の
みさへはかなくなりもこそすれ
困ったことになったと思って、うつ伏していた玉鬘の姿は、とても魅力にあふれ、手はふっくらと肥えて、身体つきや肌合いはいかにもきめこまやかに可愛らしく見えるので、光源氏はますます恋の悩ましさがつのるような気持ちがして、今日は少し、かねての恋心を打ち明けるのだった。
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