胡蝶 その二十

「それは可愛いじゃないか。官位はまだ低くても、あの人たちにどうして恥をかかせられよう。公卿でも、この中将の声望に匹敵できそうな人はそう多くない。内大臣の御子息での中でも、この人は格別思慮のある人物です。そのうち自然に、玉鬘とのほんとうの間柄に思い当たることもきっとあるだろう。今は、あまりその点をはっきりさせず、適当に言いつくろっておくほうがいいでしょう。それにしても、実に見事な書きぶりだね」



 などと言って、すぐにはその手紙を下に置こうともしない。



「こんなふうに、あれこれご注意申し上げたら、あなたが何とお思いになるだろうかと、気が咎めますが、あちらの内大臣に実の子と知っていただくにしても、まだあなたは世間知らずで、これといって身の振り方も固まっていないうちに、長い年月別れて暮らしてこられたご家族の中に急に顔をお出しになるのは、どんなものかとあれこれ心配しているのです。やはり世間並みの結婚に落ち着いてからはじめて、一人前の人として親子の御対面をする機会もおありになると思います」

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