胡蝶 その十九

「決して、殿方のお手紙のお取次ぎなどはいたしておりません。さきほど殿もご覧あそばした三、四通のお手紙は、そのままお返しして先様に間の悪い思いをおさせするのも、いかがと思いまして、女房が一応お受け取りだけはしたようですが、お返事は、ただ殿からおすすめのときだけしかなさいません。それさえ姫君はお嫌そうにしていらっしゃいます」



 と、右近が言う。



「では、この若々しく結び文をした手紙は誰からのだ。たいそう見事に書いてあるようだけれど」



 と、微笑みながら見るので、右近は、



「それは、使いのものがしつこく置いていったものなのです。右大臣家の柏木の中将様が、こちらに御奉公しております女童のみるこを前からご存じでして、その子がことづかったのです。ほかに取り次ぐものもいなかったのでしょう」



 と言うのだった。

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