胡蝶 その十二

 西の対の玉鬘は、あの踏歌の折りの対面以来、紫の上とも手紙を交わすようになった。心遣いの深さということではまだ何とも言えないが、見受けたところでは、あれこれよく気がついて行き届き、人なつこい性質とみえ、気のおけない人柄なので、誰もが皆、この姫君に好意を持っていた。恋文をあげる殿方も大勢いるようだが、光源氏が、そうやすやすと婿を決められるものでもない。自身の気持ちの中にも、きっぱりと父親代わりの立場で通せそうもないやましい心があるのか、いっそ実父の頭中将に玉鬘のことを打ち明けてしまおうかなど、思案する折々もあった。


 夕霧はいくらか親しく、玉鬘の御簾のもとなどにも近づいたりするので、玉鬘もじきじき返事しながらも、内心気が引けていた。けれどもそうした対応が当然の実の姉弟と、女房たちは思っているし、夕霧はまた、いかにも生真面目で堅苦しい人なので、色っぽい気持ちなどは毛頭も持っていなかった。

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