初音 その十五

 こうした年賀の客の賑やかな馬や車の音も、築地や木立を隔てて御殿の奥深くで聞いていた女君たちは、極楽浄土に生まれながら、まだ開かぬ蓮の花の中に閉じ込められている気持ちもこんなふうなのかと、もどかしい気持ちでいるようだ。まして二条の東の院に、遠く離れて住んでいる人々は、歳月が経つにつれて、所在ない淋しさがつのるばかりだが、世の憂さから逃れた山里に籠ったつもりになって、薄情な光源氏の心を、どうのこうのと咎めないだった。光源氏の訪れがないということ以外には、何の不安も淋しいことも全くないので、仏道に入った空蝉は、仏の道の修行以外のことには気を散らさず勤行に励み、和歌の道の学問に熱心な末摘花は、好きなようにして暮らしている。暮らし向きの経済的な面は、しっかりと光源氏が取り決めて支え、女君たちにはただ思うように住まわせるようにしているのだった。

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