初音 その十二

 まだ明けきらないうちに、光源氏は御殿に戻った。明石の君は、こんなに暗いうちから早々と帰らないでもと思うと、立ち去ったあとまでも名残惜しみ、切なさに胸がいっぱいになった。


 待ちわびていた紫の上はまた、怒っているに違いないと心のうちが察せられるので気が引けて、光源氏は、



「つい、いつになくうたた寝して大人げなく眠りこけてしまったのを、こちらからは起こしても下さらなかったので」



 と、紫の上の機嫌をとるのもおかしく思われる。紫の上がろくに返事もしないので、これはこと面倒と、光源氏は狸寝入りを決め込み、その日は日が高くなってから、ようやく起きるのだった。

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