初音 その五
明石の姫君の方に行くと、女童や下仕えの女どもが、庭の築山の小松を引いて遊んでいた。若い女房たちも、正月で気が浮き立ち、じっとしていられないように見える。
北の御殿に明石の君から、今日のために、わざわざこしらえておいたらしい様々な贈り物を、竹の髭籠や檜破籠などに入れて届けてある。言いようもなく見事に作った五葉の松の枝にとまらせてある鶯までも、いかにも何か思っているように見える。
年月をまつにひかれて経る人に
けふ鶯の初音聞かせよ
「鶯の声の聞こえない里から」
と書かれているのを、光源氏はいかにも可哀そうにと、しみじみ察した。めでたい元日というのに縁起でもなく、音弥陀を押さえられない様子だった。
「このお返事は自分で書きなさい。初便りを差し上げるのを遠慮しなければならないお方ではないのですから」
と、硯を用意してあげ、明石の姫君に書かせるのだった。
とても可愛らしく、朝夕に会っている人でさえ見飽きない明石の姫君の器量なのだから、今まで長い年月、会わせもしなかった明石の君に対して、光源氏は罪作りなことをしたと気の毒に思った。
ひきわかれ年は経れども鶯の
巣立ちし松の根を忘れめや
幼い心に思うままを、こまごまと詠んでいるのだった。
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