玉鬘 その七十一
紫の上はとてもまじめな表情で、
「どうしてその草子をお返しになりましたの。それを書き写しておいて、うちの姫君にもお見せすればよろしかったのに。私の手許にもそうした本がしまいこんでありましたが、みんな虫がついてダメになってしまいました。ですから私はそういう歌の本を読んでいないせいで、何と言ってもお話にならないほど歌はさっぱりなのです」
と言う。
「あれは姫君の歌の勉強には何の役にも立たないだろうね。大体女というものは、好きな一つのことだけを取り立てて凝り固まるのは見苦しい。かといって何事にも不調法なのはよくない。ただ自分の心構えだけはあやふやでなくしっかり持っていて、うわべはおっとりしているのこそ、見た目にも感じいいものでしょう」
などと言い、末摘花への返事などは気にもかけない。紫の上は、
「あちらのお歌には『返しやりてむ』とあったのに、こちらからもすぐご返歌なさらないのは、失礼になるでしょう」
とすすめる。光源氏はもともと思いやりのある性質なので、返事もさと気楽そうにさっさと書いた。
返さむと言ふにつけても片敷の
夜の衣を思ひこそやれ
「ごもっともなお嘆きです」
と書かれていたようだった。
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