玉鬘 その五十八

「もう少し、灯を明るくしてはどうか、これでは、あまりもったいぶりすぎる」



 と言う。右近は灯心を掻きたてて、少し玉鬘に近づけた。



「これはまた、無遠慮な人だね」



 と少し笑った。いかにもあの夕顔の面影を伝えられた目元の美しさ。光源氏は少しも他人行儀によそよそしい口ぶりではなく、すっかり父親気取りで、



「長い年月行方もわからず、心にかけない折もなく、心配して嘆いていましたが、こうしてお逢いできたにつけても、夢のような気持がして、過ぎ去った昔のこともいろいろ思い出されます。もうこらえきれないほど悲しくなり、何もお話ができなくなりました」



 と、涙を拭いた。本当に昔のことが悲しく思い出すのだった。光源氏は玉鬘の年を数えて、



「親子の仲で、こんなに長い間別れ別れになって、年月が過ぎてしまった例もないことでしょうね。前世からの因縁も恨めしくなります。今はもう、そんなに恥ずかしがって、子供のようにしていらっしゃるお年頃でもないでしょう。長年の積もる話も申し上げたいと思っているのに、どうしてそんなにはにかんでばかりいらっしゃるのですか」



 と恨み言を言うので、玉鬘は返事のしようもなく恥ずかしくなった。

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