玉鬘 その五十九

「まだ歩くこともできなかった小さいころに、遠い辺境にさすらって行きましてから後は、何もかもあるのかないのか、はかない夢のような有様でして」



 と、ほのかに答える声が、夕顔によく似ていて若々しく感じる。光源氏は思わず微笑み、



「田舎にさすらって苦労なさったことを、可哀そうにと思う人も、今は私のほかに誰がおりましょう」



 と言い、心遣いも気の利いた姫君の返事だと思った。右近に玉鬘のためにしてあげることを、いろいろ指図して、帰っていったのだった。

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