玉鬘 その三十三

 少し足馴れた右近は、あの一行より早く観音の御堂に着いた。豊後の介たちは玉鬘の介抱に難渋しながら、初夜の勤行のころにようやく上がってきた。御堂では参詣の大勢の人々が混み合い口々に喋りざわめいている。


 右近の場所は、本尊の右手に近い間にとってあった。玉鬘の一行のほうは、祈祷をお願いした師僧に、まだ馴染みが浅いせいか、西の間の本尊から遠く離れた場所であった。右近が、



「やはりこちらにいらっしゃいませ」



 と、場所を探し当てて言って寄こしてきたので、乳母は男たちをそこに残して、豊後の介にはとりわけ話して相談した上で、玉鬘を右近のところに移した。右近は乳母に、



「私はこんな取るにも足らない身の上ですが、ただ今の太政大臣様にお仕えしておりますので、こうした忍びの道中にも、無礼な仕打ちを受けることは、まずないだろうと、心丈夫に思っております。田舎びた人を見ると、こうした人の集まるところでは、不埒で生意気な連中があなどって、失礼な振舞いをしたりしますのも、畏れ多いことですから」



 と言って、もっといろいろ話がしたいのは山々だが、勤行の大声があたりに響き渡り、いかにも騒々しいので、そこに引き込まれて、右近も本尊の観音様を拝むのだった。

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