玉鬘 その二十

 あの船子たちが、



<唐泊より川尻押すほどは>



 と船歌を歌う声が荒くれて風情がないのも、今は心にしみて聞こえる。豊後の介も、しみじみ胸にひびくような調子で歌い継ぎ、



「ほんにいとしい妻子も忘れた」



 と口ずさみながら、



「考えてみれば、この歌のように何とすべて打ち捨ててきたことか、今頃は妻や子はどうなってしまったことだろう。しっかりもので役に立ちそうな家来どもは、皆連れてきてしまった。大夫の監が自分を憎んで、残してきた家族たちを追い散らして、どんなひどい目にあわせていることか」



 と思うと、大人げもなく妻子を捨てて国を出てきてしまったものだと、少し心が落ち着いてくるにつれ、色々なことを考え続けると、弱気になって泣けてくるのだった。

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