玉鬘 その四

 道中、景色のよい所々を見ながら、



「姫君の母君はお気持ちが若々しくいらっしゃったから、こんな道中のいい景色もお見せしたかったのに」


「さぞお喜びになったことでしょうね」


「でもあのお方がいらっしゃれば、私たちは筑紫なんかに下らなかったことでしょうよ」



 などと言って、何かにつけ、京のことばかり思いやられて、返る波を見ても羨ましく、心細くなるのだった。船頭たちが荒々しい声で、



「うら悲しくも遠く来にけるかな」



 と歌うのを聞くと、娘二人は差し向かって泣くのだった。




 船人もたれを恋ふとか大島の

 うらがなしげに声の聞こゆる




 来し方も行方も知らぬ沖に出でて

 あはれいづくに君を恋ふらむ




 都を遠く離れ、田舎へ旅する悲しさに、<鄙の別れにおとろへて>の歌を思い出し、二人はそれぞれ気晴らしに、こんな歌を詠んだのだった。

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