玉鬘 その三

 知らせるよいつてもないうちに、



「母君の行方もわからないのに、父君の頭の中将様に、それを尋ねられたら何とお答えしましょう」


「まだ父君のお顔もよく覚えていないこんな小さな姫君を、たとえひきとってくださっても、父君のもとに残していくのも、私たちは心配でたまらないことでしょう」


「頭の中将様が自分の子とお分かりになってからは、姫君を連れて筑紫に行ってもよいとは、とてもおっしゃるはずがありません」



 などと、互いそれぞれ相談しあったあげく、とても可愛らしく、もう今から気高く美しく見える玉鬘を、ろくな設備もない船に乗せて漕ぎ出したときには、本当に可哀想に思うのだった。


 玉鬘は幼心にも母君のことを忘れないで、時々、



「お母様のところに行くの」



 と尋ねた。乳母はそのため涙の絶えることもない。乳母の娘たちも、夕顔を恋焦がれて泣くので、船旅には涙は縁起でもないと、少弐は乳母たちを叱ったりもするのだった。

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