乙女 その六十七

「春鶯囀」を舞うころ、昔の桐壺帝の御代の花の宴を思い出し、朱雀院は、



「またあれほどのすばらしいことが、いつ見られるだろうか」



 と言うにつけても、光源氏は、あのころのことを感慨深く思い出し続けた。


 舞が終わるころに、光源氏は朱雀院に盃をさし上げた。




 鶯のさへずる声はむかしにて

 むつれし花のかげぞかはれる




 と光源氏が詠むと、朱雀院は、




 九重を霞隔つるすみかにも

 春と告げくる鶯の声




 帥の宮は、今は兵部卿で、帝に盃を献じた。




 いんしへを吹き伝へたる笛竹に

 さへづる鳥の音さえかはらぬ




 めでたく言葉たくみに、その日の行幸を取り成し詠んだ宮の心配りは、とても見事だった。帝は盃を取り、




 鶯の昔を恋ひてさへづるは

 木伝ふ花の色やあせたる




 と言う様子は、この上もなく気品と風情をそなえていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る