乙女 その五十九
左衛門の督は資格のない人を舞姫に出したので、咎めがあったが、その娘も宮中に留めた。摂津の守惟光は、
「典侍が欠員になっております」
と、そこへ娘を差し出したいと人伝に言ったので、光源氏はそう取り計らってやろうかと考えていた。
夕霧はそれを聞き、ひどく残念がった。自分の年齢や位などが、もう少し人並みであったなら、惟光の娘をほしいと言ってみるのだが、思いを寄せていることさえも知らせないまま終わるのかと思えば、特に熱中しているわけでもないのだが、雲居の雁のことに加えて、涙ぐむ折々もあるのだった。
藤典侍の兄で、童殿上しているものがあり、いつも夕霧のところに参上して御用を務めていた。夕霧はいつもより親しそうにその少年に話しかけ、
「藤典侍はいつ頃宮中に上がるのか」
と尋ねた。
「今年のうちと聞いております」
と答えると、夕霧は、
「あの人は顔がとても綺麗だったので、なんだか恋しくてならないのだ。お前がいつも会えるのが羨ましくてならない。もう一度私に会わせてくれないか」
と頼むと、
「どうしてそんなことができましょうか。私だって思うままに顔を見ることもできないのです。男の兄弟だといっても、父は近くにも寄せ付けないのですから。まして、どうして夕霧様に会わせることができましょう」
と答えた。
「それなら、せめて手紙だけでも」
と、渡した。前々から、こんなことをしてはいけないと、惟光に厳しく言われているのに困ったことだと迷惑がっていたが、無理にお渡しになるので、気の毒に思い、手紙を受け取っていったのだった。
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