乙女 その四十九

 灯りがともされたころ、頭の中将が宮中から退出してきたようで、物々しく大声をあげて、先払いする前駆の声に、



「そらそら、お帰りだわ」



 と、女房たちがびくびく騒ぐので、雲居の雁は本当に恐ろしくなって震えていた、


 夕霧のほうは、頭の中将に見咎められてどうせ騒がれるなら、騒がれたってかまうものか、どうとでもなれと一途に思いつめて、雲居の雁を放さない。雲居の雁の乳母が雲居の雁を探すうちにやってきて、この様子を見つけて、



「まあ、いやなこと。たしかに頭の中将様のおっしゃる通り、大宮がご存知ないはずなかったのだわ」



 と思うと、とても口惜しく思って、



「まったく、これだから厭になってしまいますよ。頭の中将様のお腹立ちやお小言は言うまでもないこととして、按察使の大納言様も、お聞きになって何とお思いになりますことか。どんなに立派なお方にしろ、せっかくのご結婚のお相手が六位風情ではねえ」



 と、ぶつくさ言う声もかすかに聞こえてきた。二人のいる屏風のすぐ後ろまで探しに来て、愚痴をこぼしているのだった。

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