乙女 その二十八

「頭の中将様はいかにも賢いおつもりでいらっしゃるようですけど、やはり親馬鹿だわね。この分ではそのうちきっと困ったことが起こるでしょうよ。〈子を知るは親にしかず〉なんてどうも嘘みたいね」



 などと言って、つつきあっている。



「情けないことだ。やはりそうだったのか。全然考え付かないことではなかったが、まさか、まだ子供とばかり思って油断していた。世の中はつくづく嫌なものだなあ」



 と、何もかもすっかり事情を悟ったが、そのまま音も立てないで、邸を出て行った。


 やがて聞こえてきた頭の中将の重々しい前駆の声に、女房たちは、



「まあ、殿はたった今お帰りになったのですわ。今までどこに忍んでいたのかしら。あのお年になってもまだ、こんな浮気心をお持ちだなんて」



 と話し合っている。さっきの内緒話をしていた女房たちは、



「とてもいい匂いの衣擦れの音について伝わってきたのは、夕霧さまがそこにおいでなのだとばかり思っていたのに。まあ、怖い。私たちの陰口をうすうすお聞きになったのではないかしら、殿は面倒なご気性なのに」



 とみんなで心配しあったのだった。

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