朝顔 その十九

「この典侍が宮中で働き盛りのころに、後宮で君寵を争っていられた女御、更衣の方々のうち、ある方は亡くなられてしまい、または生きがいもないほど情けない境遇に落魄していらっしゃる方もあるようだ。それにしても、あの藤壺の宮などは何とお若くして亡くなられたことか。はかない無常の世の中に、年からいえば余命いくばくもなさそうで、性質なども浅はかに見えたこの源典侍は生き残り、心静かに仏道の勤行などしてこれまで過ごしていたというのは、やはり何ごとも定めのない世の中なのだ」



 と思い、しみじみ感慨にふけっていると、源典侍は勘違いして、自分のことを思っているのかと、胸のときめく思いで、気もそぞろに若やいでいた。




 年経れどこの契りこそ忘られね

 親の親とか言ひし一言




 と源典侍が言うと、光源氏はぞっとして、




 身をかへてのちも待ち見よこの世にて

 親を忘るるためしありやと




「末頼もしい契りですよ。そのうちゆっくり話しましょう」



 と言って立つのだった。

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