朝顔 その十五

 紫の上は、



「馴れてしまうのは、たしかに厭なことの多いものですわね」



 とだけ言って、背を向けてうち伏せていた。このまま出かけてしまうのも気がかりだが、女五の宮には訪ねるという手紙をさし上げたので、出かけてしまった。


 こんなことも起こるはかない夫婦仲だったのに、何とのんきに暮らしてきたことかと、紫の上は思い続けながら横になっていた。


 光源氏は鈍色の喪服を着ているが、濃淡の色の重ねの調和がかえって素晴らしくて、雪の光に映えてこの上なく優艶な美しさだった。紫の上はその姿を見送って、本当にこれ以上、身も心も離れてしまったらと、悲しさがこらえきれなくなるのだった。前駆などもできるだけ少なくして、



「参内する以外の出歩きも億劫な年になってしまった。桃園の女五の宮が心細そうにお暮しになっていられるのを、今では式部卿の宮にお世話をお任せしておいたのだが、女五の宮がこれからはよろしくなど私を頼りになさるのもごもっともだし、おいたわしいものだから」



 など、女房たちにも弁解するが、



「さあ、どうですか。浮気な御性分がいつになってもおなおりにならないのが、玉に瑕というものかしら。今に軽率なはしたないことも起こるのではないかしら」



 と、女房たちはつぶやきあっていた。

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