朝顔 その十二

 二人のこうした仲が、世間に漏れて、



「光源氏様が前斎宮の朝顔の姫宮に、熱心に言い寄っていらっしゃるので、叔母君の女五の宮なども喜んでいらっしゃるそうな。たしかにお似合いの縁組というものだろう」



 などと噂しているのを、紫の上は人伝に耳にした。初めのうちは、



「まさかいくらなんでもそんなことがあるなら、私にお隠しにならないだろう」



 と思ったが、早速気をつけて見てみると、光源氏の素振りなどが、いつもに似合わずそわそわして、心も上の空なのがわかった。



「さてはこんなに思いつめていたのを、自分には何気なく冗談のように誤魔化していらっしゃったのかしら」



 と思うと情けなくなった。



「朝顔の姫宮は自分と同じ皇族の血筋だけれど、昔から世間の声望も高く、格別重んじられた人だから、光源氏様の心がそちらに移ったら、この私はどんなに惨めな目にあうだろう。これまで長い年月、肩を並べる人もないほど愛されてきたのに、今更、人に圧しのけられるようになるとは」



 と、人知れず悩みあぐねて嘆くのだった。

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