薄雲 その四十一

 大堰の山里の明石の君も、どうしているのかと絶えず気にしているが、ますます不自由さを増す今の身分では、大堰へのお出かけは、なかなか難しかった。



「あちらでは自分との仲を味気なく情けないものと思い込んでいるようだが、どうしてそうまで思いつめることがあろうか。気軽に京に出て来て、ありふれた暮らしはしたくないと思っているらしいが、それは思い上がりというものだ」



 と、光源氏は考えるものの、やはり可哀そうで、例の嵯峨野の御堂の不断念仏にかこつけて行くのだった。


 大堰は、住み慣れるにつれて、いっそう物寂しいところなので、それほど深刻な事情がなくてさえ、あわれを覚えずにはいられない。ましてこうして逢うにつけても、このどうしようもなく辛い光源氏との宿縁は、さすがに浅くはないのだと思うと、明石の君の悲しさはかえって増すばかりなのだった。それは慰めようもない有様なので、光源氏は、なだめかねていた。

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