薄雲 その四十二
茂みの濃く深い木立の間から見える、数々の篝火が、遣水の蛍の光かと見間違えそうなのも風情があった。
「昔、明石のこうした水辺の暮しの経験がなかったら、こういう景色もどんなに珍しく思われることだろう」
と光源氏が言うと、
漁りせし影忘られぬ篝火は
身の浮舟や慕ひ来にけむ
「篝火も、私の悲しさも、まるであのころのような気がいたします」
と言うと、光源氏は、
浅からぬしたの思ひを知らねばや
なほ篝火のかげは騒げる
「世の中の辛いものと思わせたのは、誰でしょう」
とさかさまに怨んだ。
この頃は一体に何もかも静かに気持ちも落ち着いているときなので、御堂での勤行にいろいろと心を尽くし、いつもよりは長く滞在した。それで明石の君も少しはまぎれたとか、いうことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます