薄雲 その三十九
このついでに、光源氏は胸の思いをこらえかねて、色々と切ない怨みごとを訴えたことだろう。もう一歩ふみこんで困ったこともしそうなところだったが、前斎宮がそんな光源氏を厭わしく思うのも、もっともなことだし、光源氏自身の心にも年甲斐もなく怪しからぬことと反省して、ため息をついていた。その様子が奥ゆかしく優雅に見えるのさえ、前斎宮にはかえって疎ましく感じられた。少しずつそっと奥のほうへ引き取った気配なので、光源氏は、
「情けないまでにすっかり私をお嫌いになられたものですね。ほんとうに思慮の深い方は、そんな冷たい態度はなさらないものですよ。まあいいでしょう。でもこれからはお恨みにならないでください。でないとどんなにか辛いことでしょう」
と言って、帰るのだった。
そのあとにしっとりとした光源氏の薫物の匂いが残っているのまでも、前斎宮はおぞましく思った。女房たちは格子などもおろして、
「この敷物の移り香の、何とも言いようがないこと。どうしてこうも何から何まで揃っているのかしら」
「柳の枝に梅や桜の花を咲かせたようなお方というのは、こういうお方なんですね。ほんとうに空恐ろしいような」
と噂し合っていた。
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