薄雲 その三十八

 前斎宮はとても答えにくいことと思いながらも、まったく返事をしないのも具合がわるいので、



「あなたにさえ決められないことを、この私にどうして決められましょう。本当にどちらがいいとも申せませんけれど、〈秋の夕はあやしかりけり〉と古歌にも詠まれた秋の夕暮れこそ、はかなくお亡くなりになった母上のゆかりになるかと思われまして」



 ととりとめもないように言いまぎらわす様子が、何とも可憐だった。光源氏は恋心を抑えかねて、




 君もさはあはれをかはせ人知れず

 わが身にしむる秋の夕風




「お慕いする気持ちの耐え難い折々もあるのです」



 と言うのに、前斎宮は何と返事のしようがあろうか。言うことがよくわからないというふりをした。

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