薄雲 その二十三

 葬送の折にも、世をあげての騒ぎになり、崩御を悲しまないものはなかった。殿上人なども皆一様に黒っぽい喪服を身につけて、宮中も陰気にしめり、何をしても一向に映えないくらい晩春なのだった。


 二条の院の庭先の桜を見ても、光源氏は昔の花の宴のときのことなど思い出した。〈今年ばかりは墨染に咲け〉という古歌をひとり口ずさみ、当然人が怪しみ、咎めるので、念誦堂に籠もって、日がな一日泣き暮らしていた。


 夕日が華やかに差して、山際の木々の梢がくっきりと見えるところに、雲が薄く棚引いているのが、喪服と同じ濃い鈍色なのを見ると、この日頃は悲しみのあまり何一つ目に入らないのに、とてもしんみりともの悲しく思った。




 入日さす峰にたなびく薄雲は

 もの思ふ袖に色やまがへる




 と詠むが、誰も聞く人のいない念誦堂のことなので、詠み甲斐のないことだった。

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