蓬生 その十一

 冬になっていくにつれて、今はもう何一つすがるよりどころもなく、末摘花は悲しそうに沈み込んでいる。


 光源氏の邸では、亡き桐壺院追善のための法華八講を、世間でも大評判になるほど盛大に営んだ。ことに僧などは、並々のものは呼ばず、学問も秀でて、修行の功も積んだ聖僧ばかり選んだので、末摘花の兄の禅師の君も参上した。その帰りがけに末摘花のところに立ち寄って、



「これこれの次第で、光源氏さまの八講に参列しておりました。たいそう厳かで、仏菩薩のおいでになる極楽浄土にも劣らないほどに、趣向の限りを尽くして尊くなさっていらっしゃいました。あんな素晴らしいことをなさる光源氏さまこそは、仏菩薩の化身でいらっしゃるのでしょう。そんな貴い人が、どうして五濁悪世のこの末世にお生まれになったのだろう」



 と言って、そのまま帰っていった。お互いに無口で、世間の人に似ない変わった兄妹なので、無益な浮き世の世間話などしない。


 それにしても、こんなに不運な悲しいわが身の有様を、頼りなく待ち遠しく、心細がらせたままでうち捨ててもかまわないとは、何とつれない仏菩薩ではないだろうか、と恨めしく思うにつけ、これ以上光源氏に対して望みは持てないだろう、と諦めようと思っているところに、大弐の北の方が突然訪ねてきた。


 いつもはそれほど親しくしているわけでもないのに、連れ出そうとした下心から、末摘花に土産なども用意して、立派な車に乗り、表情や態度まで得意そうに満足しきった様子で、こちらの都合も聞かずに、いきなり車を走らせてきて門を開けさせた。たちまち邸内の無残にも荒れ果てているのが見え、その見苦しさ、侘しさは言いようもなかった。

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